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ふりつもる線

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2008年 09月 05日

個展に向けて

10月28日からニュートロンでの個展に向けて、ギャラリストの石橋さんからコメントをいただきました。

2008/10/28 Tue - 11/9Sun
『内側の他者』忠田愛(平面)

ニュートロン代表 石橋圭吾

 私は近しい人が死んだ時にどう振る舞うべきか、未だによく分からない。
それはおそらく、人それぞれの死に対する考え方によるのだと思う。
私は祖母の時は通夜における寝ずの番を従兄弟と共に買って出て、残り物の寿司を二人で
食いまくっていたし、祖母も喜んでくれているだろうなどと、勝手に思い込んでもいた。
祖父の時はカメラを携え、死に顔を撮影した。そして寝間に居並ぶ親族も撮った。
焼き場に向かう車を追って撮った。やがて壊されて無くなる祖父母の家も撮った。
私にとってその二人の死は、太陽と月のごとく私を照らしてくれた存在の消滅を意味する事でもあり、
ありったけの愛情を受けた子供としての時代に、決定的に別れを告げるきっかけでもあった。
死者の棺の前で寿司をむさぼり食うのも、死人を取り巻く身内の様子をバシャバシャと
撮影する行為も、人によっては「不謹慎」と言われるだろうが、私にとってはそれは二人の死を
咀嚼して自らの内側に消化するための行為であり、まさかその場で泣き伏したり、
大声を発したり、という様な表現手段はとれなかったのだ。
 忠田愛も、もしかしたら身近で大切な人の死を受け止めて消化する方法が、
人とは少し異なるかも知れない。彼女は4年近く被写体(モデル)として見続けてきた友人の
祖父を今年の7月に亡くし、結果として作品に表れるものが変化した。
だが決して「絵を描けなくなった」わけでも「悲しみに暮れていた」わけでもない。
忠田は作家として、彼の生前は第二の祖父のように慕い、彼から多くのことを学んだという。
その死は作家として決定的な出来事なのは間違いないが、彼女はあくまで絵筆を握ることを
通じて、今度は彼の死後に彼を描こうと試みた。それは必然的に、
物理的な肉体が消滅している状態で「彼」を想像しながら描く事になるのだが、
その過程において、作家は相当に苦しんだようだ。

 従来、忠田愛は老人をモチーフに選び、老いというものをポジティブな側面から照らすような
絵画を制作してきた。老いを経なければ出せないようなオーラを身に纏った老人達はどれも
活き活きと描かれ、大きく、伸びやかに、しなやかに画面の中から鑑賞者に向かって
「老いるとは怖い事ではない。生を全うする事は、最後の瞬間まで美しいことなのだよ。」と
語りかける様であった。大作に限らず忠田の生み出す画面は焼かれ、削られ、洗われ、
そして描かれる作業を繰り返す結果、新しく生まれた作品でありながら既に朽ちている/
老いているかのごとき質感を持っている。それは物質としての(外側の)問題でもあり、
一方で描かれているモチーフ(内側)の問題としても、「老い」を扱っていたことになる。
だが実作品を見た感想で言えば、どちらからも老いとは対極に位置する、
若々しくエネルギーに満ちあふれた印象を受け取ったのも事実である。
それは一重に、作家の「老い」に対するイメージがそうであることを示すのであろうが。

 今回のニュートロン初個展における出展作品は大きく分けて二点。
一つは「彼」が死の床に就いている、安らかで静かな構図。もう一つは連作として、
「彼」らしき人物をひたすらに正面に見据えて描こうとする像。それらは先述のとおり
「彼」の死後に完成されたものだから、モデルは現実にもう存在していない状態で描かれた。
事実として「死んでいる」姿であり、記憶として立ち上がってくる顔である。
どれだけ老いていても失われなかったエネルギーは、果たしてこの作品に宿っているのだろうか、
否か。「死」を描いた絵画はそれ自体が「死んで」いるのか、否か。

  個展のタイトルでもある「内側の他者」と名付けられた連作は、故人を想って浮かんでくる
印象・映像を作家が印画紙に焼き付けるかのように、1枚1枚、描き終えてはまた描き始めて
生まれてきたものたちである。「内側の他者」とは作家または鑑賞者(われわれ)の内に潜む
様々な他者性のことを指すのはもちろん、その目の前にある絵の中に見いだされるべき、
他者の記憶でもあるように思える。言い換えれば自己を通じて蘇る他者。
いわゆる「自画像」ではなく、「自画他像」とでも言えるだろうか。
親しかった他者はこの行為の繰り返しによって作者に咀嚼され、少しづつ確実に消化(昇華)されてゆく。
結果として現れた像は、もはや「彼」ではないが「彼に」によって生まれたものたち、であるのだろう。

by ai-pittura | 2008-09-05 00:54 | 展覧会


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