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ふりつもる線

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2007年 09月 06日

忘れるほどに絵を描けたら

忘れるほどに絵を描けたら_b0080173_20121787.jpgこの一週間位、目まぐるしくいろんなことがあり、
その中でいくつかの素敵な出会いがあった。
まず、少し遠いところから私のせまくて汚いアトリエに
足を運んでくださったある方。
そのOさんのリクエストで過去のスケッチやドローイングを
引っ張りだすことになったのだが
その中に自分が描いたということすら暫くわからないものがあった。
2年前に描いたドローイング、左の写真のもの。
じっと見ているうちに当時の感情がせりあがってきて思い出した。
わきめもふらずに描いていたから忘れたのだろうか。
あの頃、今よりもっと無器用ではがゆくてならなかったけど
今、私は忘れるほど絵の中に入れるだろうか。
つまらぬ固執や執着を持つようになっていやしないだろうか。
忘れるほどに絵を描けたら素敵である。
Oさんは、若くて大した経歴がある訳でもない私に対して
とても誠実な方だった。
私がその職種の人にそこまで理解してもらえ、
敬意をもって接していただいたことは初めてだった。

自分より20も30も年下の人に対して、敬意を払える人はすてきだと思う。
私は20年下の絵画教室のこどもの暴挙に本気で対抗してしまうほど子供であり、
えらそうなことだって言ってしまっているに違いない。
イタリアの田舎で親ほど年が離れている人と深い友情関係を築いている人たちに
多く出会ったが、日本でなかなかそれはめずらしいと思う。
若者がお年寄りに対して敬意を払うことはあっても逆は少ないように感じる。
最近、もうひとりそんな人に出会った。
今まで私の大作はほとんど額なしで出しており、小品も自作の簡単な額といったかんじで、
本当に小さな作品にだけイタリアの額縁屋や蚤の市で買ってきたものをつけていた。
この夏、少しだけ生活費以上の収入があったので、
コンペ出品のために安くていい額がないか、ふらっとある額屋さんに入った。
そこの社長に絵の写真を見せたとたん、手招きされて、見ると
奥の引き出しの中にずらり、うーんとうなってしまうほど好みのものが。
こんなに気に入ったものに出会えたのは久しぶりでドキドキしていた。
それから「写真ではなく現物を。」と言っていただいたので
実物の小品や50号の作品まで持ち込み、額を決めるまで何度も通い、相談に乗ってもらった。
私にすれば、高い額、結局臨時収入もすっからかん、かなりの赤字、
でも鴨居玲なんかの額もつけている社長さんからすれば、相当安い客なのに
他の高額な買い物客とちっとも変わらない誠意をもって対応していただいている。
この世界もまた、権力者に媚びへつらう者、
それによって自分の名声や発表の場を得ようとする者、金に物言わす者、
そしてまたそれに群がる者、その浅ましさに吐き気をもよおすことは決して少なくない。
でも、そんな中でこういう人に会え、本当に心をうたれた。

昨日、Nさんと娘さんとsesamoでワインを飲んで蛸のアヒージョやイカスミのパエージャを食べた。
Nちゃんは何年か前からイタリアの音楽学院に留学しているのだが
年も育った環境も不思議と近い彼女となぜか初めて会ったという気がせず
イタリアの話、日本のこと、結婚や将来について楽しい話をした。
違う分野にも自分と同じような人がいるのはすごくおもしろいし
いつか彼女のピアノで絵を描いたら楽しそうだと思った。
一昨日は後輩のKと上海バンドで久しぶりに飲んだ。
紹興酒を飲みながら、鶏の白子(睾丸)をつついてさんざん絵の話をした。
彼女と私は全然描くスタイルは違うけれど、
ぶつかりかたの無器用さは似てるのかもしれない。
納得のいかないこと、腹のたつこと、絶対曲げたくないことをお互いに吐き、
そしてきれいさっぱり、スッキリした。
絵を描いていくことは孤独でもあるけど、最近は特にいろんなところで支えてくれる人の温みを思う。



忘れるほどに絵を描けたら_b0080173_20545553.gif

by ai-pittura | 2007-09-06 20:11 |


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