「その日霧の中にいた私の親しい木」
網、陶土、和紙、墨、インク、木炭、ソフトパステル
私のイタリアは霧のにおいと共にある。
降ってくるような太陽の光と空の広さも大好きなイタリアだけど、
はじめての霧の朝のうつくしさは永久に忘れられない。
ビロードのような白の中、数メートル先も見えない田舎道を自転車でゆっくり走った。
小さな小さな霧の粒で体がしっとり濡れていく。
ふと、音の無いグレーの濃淡から木のシルエットが浮かびあがった。
それはSan Giorgio di Pianoの駅に行くまでの耕地にぽつんと立つ親しい木の
私の知らないすがただった。
何か思うかわりに涙がでてきて、駅に着いて電車に乗って霧の晴れたBolognaに着いても
涙はとまらなかった。
滞在を終えてイタリアを発つ前の日、めずらしく雨が降り、霧になった。
私はそれをあの木からの挨拶だったと、ひとり勝手に思っている。