今、私は彫刻の作業場の一隅で制作している。
ちかくには木彫や石彫をしている人がいる。
槌で叩いてノミを入れる時の、規則正しいリズムは
心地よさと緊張感をもって
私を絵に向かわせてくれる。
木はこんこんというあたたかい音。
石はキーンキーンというきびしい音。
私は4年前、半年間だけ彫刻コースに留学した。
その頃、途中から絵の方がやりたくて
不真面目だったけど、今その音を聞いて
楠にノミを入れていた時の気持ちがよみがえった。
チェーンソーで切った瞬間、木が生々しく放った匂いは
「森の香り」なんていう安らぎとはほど遠く
もっとどぎつい叫びのようなものだった。
木が生きものだということをその時はじめて
強く実感した。
そんな木にノミを入れていくという重さ。
木や石や土に直接触れている彫刻や陶芸の人たちは
自分の思い通りにばかりはいかない素材に対して
特別な愛着と敬意、そして独特のきびしさを
もっていると思う。
素材に対するそんな感覚を
絵を描いてる私も忘れちゃいけない。
ぬくぬくした部屋でなく、冬の温度を感じながら
制作していると、そんなことを思い出させてもらい
背筋が正された。