家に帰っても、気分が高揚していた。
描きたい人に出会った。
友達が連れて行ってくれた、ある店のおばあちゃんだった。
そこだけ違う時間が流れるような独特の空気、
薄暗い光の中に流れるタンゴ、
古びた家具、
時の流れに逆らうでも無く、
去る人を引き止めるでも無く、
そして決して表に出す訳ではないけれど、
凛とした強さを持って、その店はあった。
おばあちゃんはその店と全く同じ空気を持っている人だった。
きっとおばあちゃんとこの店は一緒に死ぬ。
おばあちゃんのうしろには
人生の酸いも甘いも全て引き受けてきた人だけがもつ炎のようなものが
見えた気がした。
このような人に出会うことは稀だ。
人物を描くようになってから、
常にある思いを持って人を見るようになったが、
人を見た瞬間にショックを受けたのは初めてかもしれない。
きれいなだけではなく、やさしさだけでなく、もっと
哀しみとか淋しさとかそういうものを巻き込んだ人間の匂い、
女の強さのようなものを目の当たりにした。