
五島を発つ最後の日は快晴だった。
レンタカーを返却し、瑠璃色に輝く海沿いを岬の先端近くまで歩く。
このあたりは矢堅目という地名で、突端の三角の大岩はかつて五島列島西方海上航路の目標となった。
そのため、侵入してくる外敵を防ぐため矢(守備兵)で堅めたという。
階段をのぼり、大岩を眺める公園につくと突然視界がひらけ、
海から巻き上げられた風に強く身体を押された。
見る間に服が帆のように波うち、煽られた髪の毛が顔を叩く。
目をつぶると どこまでも飛んでいけそうな気持ち。

一個人が抗いようのないもの(それは戦争であったり自然現象であったり)に対峙してきた人々のこと、
そして時代が過ぎ去り、また移り変わってゆく意識のことを
旅のなかで考えるともなく考えていた。
それは、いい悪いということではなく。
目の前に無窮の海がひろがっていた。
じっと見ていると太古の息づかいが聞こえてくるようだった。
大陸からこのちいさな島へ渡来してきた私たちの遠い祖先のこと。
この風景はその人たちが見ていたものとさして変わらないのではないだろうか。
見上げると数えきれない赤トンボが上空を舞っていた。