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ふりつもる線

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2014年 09月 09日

月夜の贈りもの

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制作の日々、しかし なかなか感覚を思うように掴めず悶絶の日々。

そんな時、カヤックで夜の湖に出る機会が訪れる。
菅浦の月の入江で櫂を漕ぐ・・・
それは想像するだけでうつくしい広がりをもつ風景だった。







こんなにも早く実現していいのか、
何かとてももったいないような気持ちを心の隅に感じながら
私たちは菅浦の浜で陽が沈んでゆくのを眺めていた。
菅浦、何度来ても本当に不思議な場所だと思う。
しずけさのふかさが違うのだ。
大きく抉られた湾になっていて、その左右どちらにも人の気配がないことも手伝ってか、
いや、それ以上に菅浦という土地がもつ独特の空気感だと思う。
ぽっかりとここだけが別世界のようだ。
前日までの大雨が嘘のように空は晴れ、湖は凪いでいる。
小刻みな波紋を見ていると無音がひたひたと身体に満たされていく。

カヤックをお借りする施設に行き、自己紹介をして、パドルとライフジャケットを手に浜へ降りると
もうあたりはすっかり暗く、
東の山の上に煌煌とひかる真白な月がのぼっていた。
ほとんど満月だ。(この日は中秋の名月の一日前)
じっと見ていると痛いほど鮮やかな白銀の月。

月夜の贈りもの_b0080173_21003822.jpg

カヤックで湖上に出て驚く。
暗闇のなかでは平衡感覚、速度感が昼間と比較するとかなり鈍るため
ほとんどの人がはじめは酔ったような状態になるようだ。
遠くを見ながら少しずつ身体を闇に慣らしていくと、
浮遊感と共に聴覚や他の感覚がするどくなってゆく。

月夜の贈りもの_b0080173_21142336.jpg

深い、深い黒の世界。
闇が粒子のようにあたりを埋め尽くしていく。
ヘッドライトを消すと宇宙の真ん中に浮かんでいるようで
このまま夜に溶けていきそうだ。

ふと既視感に襲われた。
この風景を知っていると思った。
リチャード・デイヴィスの銅版画・・・マニエノワール、メゾチントの深い黒。
そしてスクレーパーで研ぎ出された白い湖面。
ずっと見ていたかったその風景は一瞬で、シャッターを切っても
写真に写すことはできなかったけれど
私にはリチャード・デイヴィスからもらった、忘れられない月夜の贈りものとなった。


月夜の贈りもの_b0080173_21261126.jpg

月に照らされた湖面が白銀に躍っている。
ずっと前の方をみると、月の真下に円のようになっている場所がある。
月から零れおちた小さな光の粒がサラサラと積もっているようだ。
そこだけが神々しく、仄明るい。

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四艇のカヤックを前田さんが筏のように組んでくださり、
皆で月を眺める。
かぐや餅(蓬と餡子のお餅)と八朔のお茶がカヤックからカヤックへ回ってくる。
なんて粋な計らいだろう。
胃に甘く温かいものが落ちていくと、急に生きている実感がふつふつと湧いてきた。
もう一度月を仰ぎ見ると、さっきの透明感は消え、代わりに懐かしいような顔をしていた。


素敵な時間を本当にありがとうございました。
この日、淳はカヤックで漂流した夢を見、私はカヤックをとうとう手づくりしている夢を見ました。













by ai-pittura | 2014-09-09 22:38 | 風景


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