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ふりつもる線

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2014年 06月 07日

生活

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画家のIさんが滋賀まで遊びに来て下さる。
うちでお昼ごはんを食べていただき、近くの神社を散歩し、棚田とさくら山、そして琵琶湖の浜辺で珈琲を。
ゆるやかで、しずかなひと時。
会話らしい会話がなくとも、となりにある空気はたしかに朴訥で正直なIさんの佇まいで
そのことが 私たちにはただただうれしい。
ジュンとIさんは、なんだか不器用な人同士、とても似た波長で通じ合っている様子。
うしろから見ているとハナグマとアナグマが少し離れてふんふん匂いを嗅ぎ合っているようだった。

先月の末、Iさんの住む町を訪ねた。
どこも下町の生活感がにじんていて、私は一目でその町が好きになった。
Iさんの産まれたあたりを散歩し、ふるくから変わらない喫茶店で珈琲を飲み、
近所の商店街を案内してくださり、さいごにお宅に呼んでくださった。
彫刻刀で丁寧に彫られたちいさな表札、
玄関を開けたらすぐに二階へ伸びる急な階段をあがると畳の部屋がふたつ。
ひとつの部屋は6畳くらいだろうか、真ん中に机がありその上には丁寧に揃えられた紙の作品が
何枚も積み上げられている。
家具はとても少なく、すこしだけある箪笥や戸棚の中もほとんど描きかけの作品と本。
もうひとつのお部屋は寝食のために。
毎日食べるものも、お惣菜を近くの商店街で求められるIさんの生活は極めてシンプルだ。
調理器具はやかんとちいさなコンロだけ。
電子レンジも炊飯器も給湯機もない。
洗濯機もなく、着るものは全て手で洗い、お風呂は近くの銭湯へ。
テレビはほとんど見ず、ニュースはラジオから。
とても削ぎ落とされた生活。
それでいて、Iさんにはとりたててそのような意識はないようにもみえる。
欲を捨てているわけでもなく、昔からずうっとそうしてきたように、
とても自然に淡々と、ごくふつうに生活しておられる。

Iさんの部屋に、掌にすっぽりおさまる丸い石があった。
無数のちいさな穴があいている、滑らかな黒い石。
まるで誰かがすこしずつ大事に撫でているうちに長い年月をかけてそうなったような、
ふしぎなやさしい集積がそこにはあった。
それはたまたまゴミ捨て場に落ちていて、とてもきれいなのでIさんが持ち帰ったものなのだけれど、
黒い石の印象はIさんの生活にそっくり重なった。

生きてゆくこと、生活してゆくこと、
必要なわずかのことを、心をこめて大事にする。
私たちの生活はIさんの生活とはまたちがうけれど、
なんでもない一日を、丁寧に暮らし、そんな日々を重ねていけたらと、改めてしみじみ思う。

Iさん、ほんとうにありがとうございました。
たくさん連れ回してしまって、お疲れがでていませんように。
これからもずっとお元気でよい制作を。

by ai-pittura | 2014-06-07 21:40 | 人間


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