
左の方から、海をすべるように金色の猫が目の前にあらわれた。
銀灰色の海にたくさんの帆船や透明な何かが行き交っている。
後になって思えば、それは栄華を極めたころのヴェネツィアのラグーナのようだった。
(あくまで私のなかのイメージの。)
私たちも小さな舟に乗っていて、その往来を見ていたときだった。
とても大きな猫で、体長は3mくらいあり、
首から上と背中が海上に出ていたが毛は短く金色でツヤツヤと光っていた。
顔はエジプトのバステトのように気品があった。
海面の下の四肢は見えなかったけれど、足はなくて、箱のような身体なんだろうと思った。
すると、猫はそれを見透かしたように、すこし振り返って言った。
ウミノ ヒツギ
ー海の棺
その声はおごそかでとても静かだったけれど、
心臓をやわらかくつかむように、とても近くで聴こえた。
懐かしいものに触れられそうで触れられない、不思議な感覚だった。
その後、銀の駱駝や、みんながカラスと呼んでいる大きな梟のような海鳥にも出逢い、
海鳥が大きくはばたいたところで目が覚めた。
とても不思議な夢だった。
目が覚めてからも、美しい響きだけが 長く胸に残っていた。
海の棺って、なんだろうな。