10月14日の夜、チコの腕のなかで仔猫の一匹が横たわっていた。
もう動いてはいなかった。
その二日前から雨がつづいていた。
猫たちは皆風邪気味で暖を求めて、
うちの母屋をでてすぐのところにある風呂場の脱衣場に珍しく集まり
七、八匹がだんごになって一日中そこにいた。
皆安心しきって眠っていた。
その家族の風景はなんだか神々しいほどに感じられ
私たちは何度も何度もこっそりのぞいた。
仔猫はそのなかで息をひきとったのだった。
とても短かったけれど、
仔猫は精一杯よく生きてよく死んだ。
時がとまったような時間のなかで
不思議と、かなしみだけでない、
もっと大きななにかが胸に灯っていた。
亡骸を夜の庭にかえし、ふと振り返った時
後ろに座ってそれをじっと見ていた母猫チコの姿を
きっとずっと忘れないだろう。
今日庭に、仔猫の眠る場所を見に行ったら、
盛り上がった土の上に
もうたくさんの草の芽がでていた。