人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ふりつもる線

aipittura.exblog.jp
ブログトップ
2009年 12月 09日

香りの色

香りの色_b0080173_027246.jpg

小ぶりの柚子をいただいた。
手のひらにおさまる小さな丸を湯船に浮かべる。
以前にも書いたことがあるだろうか、我が家はお風呂に灯りがない。
理由は、スイッチのある壁ぴったりまで冷蔵庫が押し迫っていて手をいれることが不可能ということも
あるけれど、改良して電気を点けようと思わない。
薄闇の中で湯の温度が沁みてくると共に何かがほぐれていくのがゆっくりと感じられる。
考えていることが何となく頭から切り離されて、目の前にモクモクと浮かぶ時がある。

闇の階調に慣れるまでのあいだ、目を閉じていると、柚子の香りが強く立ち上ぼる。
その数瞬後、陽の光をそのまま写したような黄色が体に入り込んできた。
ものには、そのものがとてつもなくそのものらしい瞬間があると思う。
視覚を奪われてはじめて、それをまざまざと感じることがある。
少しずつ目が慣れて灰色の中にもののシルエットが浮かんでくる。
いくつかの柚子が湯船の端で列になったり弧を描いたりしている。
アルミのたらいの端がぼんやり白く光っている。それはとてもやさしい。
夜はすべてを等しく墨色のなかに落とし込む。ものとものは同化して禍々しい個性は消えてゆく。
その時初めてものが持つ本当の姿がうつしだされるのかもしれない。
仕事帰りの短い夜の散歩と、灯りのない(そして時々ローソクの)お風呂の時間が好きだ。
時間と空間がとてもゆったりとそこにある。

裸電球の灯りを大事にする友人夫婦の家がある。
その人のつくる料理は本当においしいんだけれど、
さらにその灯りの下で食べる時、よりあたたかい気がするのは
料理そのものを素直に引き出す空気があるからなのかもしれない。
夜を夜らしく、朝を朝として迎えること。
そんな単純なことをどれくらいできているだろうか。

by ai-pittura | 2009-12-09 02:36 | 筆休め


<< 稲富淳輔展      一段落 >>