花に埋もれていた。
それぞれの家の小さな畑や庭は色とりどりの花たちでいっぱいだった。
もう住む人もおらず、崩れかけた廃屋のまわりにも、それを受けとめるかのように
やさしい野の花が咲き乱れていた。
行き違う人もなく、人気のない島道を歩いていると、モノクロの風景のなかに
万華鏡のような花の色と蜜の匂いだけが鮮やかに立ちのぼってくるようだった。
それは天国というより、極楽浄土ということばの印象に近く、安らかな光に満ちていた。
死後の世界とはもしかするとこんな風なのかもしれないという思いが頭をかすめる。
しかし同時にそれは孤独でもあった。
花いっぱい運動、そんなことが書かれた古い紙が掲示板に貼られているのを目にした。
娯楽施設などなく、おじいさんおばあさんばかりになった島の中で、
みんなが元気であかるい気持ちになるように、かつて多くの花の種が蒔かれたのだろうか。
しかし、それは「美しい」とも違い、ひとつの言葉では説明がつかない。
あたたかい太陽と潮風の下にぽっかりと出現する、誰もいない楽園のような
犬島のあかるくてさびしい風景は、私の中にまたちがう花の印象を植えた。
帰ってから撮った写真を見返してみた。あの空気はうつりこんでいるのだろうか。



犬島。またいつか来ることがあるだろうか。