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ふりつもる線

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2009年 01月 16日

取材

閉ざされた場所というのは日本にいくつもある。
今まで取材を試みて、かたく拒否された時の落胆も、ああまたかという感じになってきた。
普段の生活の中で肉を食べていても、死や血を目にすることはほぼない。
私は他国の肉屋で豚の巨大な肉塊が天井から吊り下げられていたり、
皮を剥がれたままの兎やトリが売られていたり、沖縄で豚の頭が市場に積み重なっているのを
見た時、日本本土でそのような情景をほぼ目にしないことに
一種の恐ろしい違和感を感じた。
売られている肉は、動物の匂いも生死も連想させない別物の「肉」になっているように思えた。
牛や豚の屠場、解体処理場。
それを絵に描く描かないというより、普通に肉を食べるひとりの人間として
命をもらっていることを、肉になっていくあるがままを認識したかった。
そして、その仕事をしている人たちを尊いと思ったから。
見事に断られた。
過去の差別問題も絡んで複雑であることは予想していたが、それに加え個人情報保護法や
プライバシーに関することも言われた。
無論見知らぬ他者を受け入れ、前例をつくる諸々のリスクは承知だが
閉ざすことで社会は大きな何かを失っている。
個人保護の法律が人と人を切り離すものでないことを願う。
動物(犬猫など)殺処分場。
それは交通の便が悪い山の中や町のはずれにあることが多いように思う。
千葉など一部の地域で一般見学を受け入れているところもあるが
私が見学を尋ねたセンターの対応はひどかった。
「そんなん見るもんちゃうよ。職員でさえ見ることないし
ボタンひとつ押したらガス室に送られていくだけで今全部機械ですわ。」
その時、手の震えが止まらなかった。

「残念ながら今は全部コンピューター制御ですわ。」
似た言葉を聞いたのはこの前だった。
N精鋼所という古くからの大きな工場がある。
遠くから見ると鉄錆をまとった体が美しい。
側に寄ると周囲を巡る無数のパイプや線が圧倒的な存在感を放っている。
是非中を見てみたく、本社に申し入れてみたが、革張りソファの部屋に通され、
現場はヘルメットかぶったり危険もあるし見学はお断りしています、とのこと。
きっちり体制ができあがっている企業はもう難しい、と町の小さい鉄鋼所に行ってみる。
大きく開いた入り口から青い火花を散らして働く人たちの姿がすぐそこで見える。
おー!これこれ!と思って入ってみるが、
「ノウハウとか知られたくないんでお断りします。」とのこと。
もうあきらめかけ、段々歩みも重くなってきた時、ひとりの労働者と出会った。
屋根も曲がり、とても小さく、吹きさらしで全く快適とは言えないその場所で
ただもくもくと手を動かしていたその人を眩しいほどに思った。
どんなに機械化が進もうと、機械だけにすべてを任せられることなんてありえない。
コンピューター関連の仕事をするのも人。
手仕事は、少なくなっても決してなくなることはないものだ。
取材で現場の空気に触れて感じることはとても多い。

by ai-pittura | 2009-01-16 14:43 |


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