「Venezia:Chiesa dei Carmini」
網、陶土、和紙、墨、インク、木炭、ソフトパステル
はじめてヴェネツィアの地を踏んだのはもう10年位前になる。
それから6回ほどこの町を訪ねた。
しかし今もって私はまだヴェネツィアの何をも知らないような気がするのだ。
目を凝らそうとすればするほどぼやけ、
つかまえようとしても指の隙間からこぼれていく、そんな場所だ。
訪れる度に違う表情を見せるこの町が刻んできた栄光と衰退と悲しみの歴史。
須賀敦子さんがトリエステに抱いた感情に似たものを
私はヴェネツィアに抱かずにはおれず、
肩がつきそうな細い路地を歩いていると彼女の文章が影のようについてくる。
「水上に建てられ、空に描かれた、実在しない町・・・貴重をなす二つの層。
そのあいだをこの町はするりとうまくくぐりぬける。」
幻に終わったフェリーニの映画の冒頭が脳裏に焼き付いている。
ヴェネツィアは世界にたったひとつ、唯一無二の町であり、
空と海、日常と非日常、現実と夢の間に揺らめく蜃気楼のような場所だ。
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